食べた物が人の体を作る
人の体は食べた物によってできています。
ですので、毎日の食事の取り方によっては病気になったり、あるいは病気を予防することもできます。
洋菓子は嗜好品で、毎日の食事とは異なりますが、体の中に入れて体を作るものであることに変わりはありません。食べた物によって人の体は作られているのだということは常に気にかけていることです。
食育について
最近、テレビで食育という言葉をよく耳にします。2005年に食育基本法が成立して以降、広く一般に知られるようになりました。農林水産省は食育について以下のように説明しています。
食育は、生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てることです。(農林水産省|食育の推進)
口から食べ物を摂取して体の栄養とし、老廃物を排泄するというヒトの営みは大昔からずっと変わりません。それなのに、なぜいま食についてわざわざ社会が教育しなくてはならないのか、疑問に思いませんか?
子どもは親が作った料理を食べて育ちます。料理の作り方もおばあちゃんから子、孫へと家庭で伝承するものでした。煮物は昆布と煮干しでだしをとり、それももったいないからと煮干しイリコも栄養になるから食べなさいと私は育てられました。母の味は伝承するもので、それ自体文化であると思います。食育基本法にも第5条で「食育は、父母その他の保護者にあっては、家庭が食育において重要な役割を有している」と示されている通り、食の教育は本来、親が家庭で行うものです。
しかしながら近年では家庭で食育を行うことが社会環境の変化により困難になりました。核家族化が進み、女性の社会進出で共働き夫婦が増え、家庭内で調理すること自体が減りました。子どもの塾や習い事などのため、家族で食事を共にする時間を十分に持つこともできなくなりました。子どもだけで食事を取ることも増えています。また後述する食品添加物や農薬、植物性油脂などの問題もあります。家庭で十分な食育を行えなくなった現状があり、そのため食育は社会が取り組まなければならない課題となりました。
当店では中学生の職場体験を受け入れておりますが、それも食に関わる事業者としてできる食育の1つだと考えています。当店での職場体験が、子どもたちが食に関する知識と食を選択する力を習得する1つの機会になれたらよいなと思っています。
食育は子どもにだけでなく、大人にも必要です。健全な食生活を実現するには何よりも大人の私たちがもっと食に関心を持つことが必要だと思います。早いとか、安いとか、口に合うとか以外にしっかりと食の現状を知ること。知ると選ぶことができます。野菜も油脂もその他の食材も選ぶことで、より元気でいられます。知ってわかった上で個人の判断で状況に応じて食べる物を選んでいけたらよいのだと思います。
健全な食生活を実現するには引き算
私は以前、とても体調の悪い時期がありました。朝起きれず、食欲がなく、腹痛や倦怠感もありました。病院をはしごして検査を重ねても原因がわかりませんでしたが、食事に気をつけてみると徐々に体調がよくなり、しばらく食事に気配りする生活を続けているとすっかり元気になりました。それからかれこれ20年になりますが、今も食事に気配りをする生活を続けています。
私が行っている食事への気配りの考え方の基本は余分なものが入っているものをできる限り取らないようにするというものです。何かを摂取したら健康になるというような足し算的な考え方ではなく、何かを摂取しないようにするという引き算的な考え方。現代の日本において健全な食生活を実現するには引き算的な考え方が必要なのでは、と自分の経験からそのように思います。
余分なもの
私ができるだけ取らないようにしている余分なものとは添加物や防カビ剤や残留農薬など。それら余分なものが加えられているものをできるだけ食べないように気をつけています。
添加物
添加物。食品表示ラベルの原材料名のところの後のほうに書かれている得体のしれないもの。加工食品の多くには複数の添加物が加えられています。添加物の多くはカタカナで書かれています。平たく言うと自宅の台所に存在しないものです。海外から農産物を輸入する際に散布される防カビ剤も添加物に分類されます。
添加物は人の生活を便利にしました。現在の日本では添加物なしの食生活はありえないほどで、私たちは知らず知らずのうちにたくさんの種類の添加物を日々摂取することになります。しかしながら、添加物は食べ物としては余分なものです。余分なだけでなく、体内に留まることで体に悪影響を与えるものもあります。認可され使用されていた添加物がその後に健康に害があるとわかって使用禁止になることもあります。
農薬
農薬も食べ物としては余分なものです。日本は農薬の使用量が極めて多い世界有数の農薬大国なので、農産物に残留する農薬の量も他国に比べて多くなります。オリンピックの選手村の食堂で使用される農産物には生態系への配慮や残留農薬などに厳しい基準が設けられますが、オリンピック選手に食べさせられる基準を満たしている農産物は日本ではごくわずかしか生産されていません。
また農薬を使うと野菜や果物の中に含まれるサルベストロールという物資の含有量が著しく減ることも知られています。サルベストロールはガン予防に効果のある物質で、人体内でガン細胞に取り込まれると抗ガン物質に変化してガン細胞を死滅させます。そもそもサルベストロールは植物がカビから自分の身を守るために生成する物質なので、農薬を使うとサルベストロールが十分に生成されなくなります。
農薬を使用した野菜や果物をいくら食べてもサルベストロールをほとんど摂取できません。現代人のサルベストロール摂取量は100年前の10~20%までに減っています。このことからも無農薬または減農薬の農作物に価値があることがわかるかと思います。
植物性油脂
植物性油脂(サラダ油)についてもあまり使わないように心がけています。植物性油脂は過剰に摂取すると体内で炎症を起こし、アトピーやアレルギー、喘息、血栓などの原因となります。サラダ油を化学処理して製造されるマーガリンなどはその製造工程でトランス脂肪酸を生成します。トランス脂肪酸の摂取は心血管疾患のリスクを高めることがわかっており、他国では食品中の含有量の表示の義務化や含有量の規制が行われています。マーガリンなどの製造や輸入、販売そのものを禁止する国々も出てきています。
トランス脂肪酸の摂取量について日本では規制がなく、知らず知らずのうちにパンやケーキ、クッキー、ドーナツ、フライドポテトなどからトランス脂肪酸を摂取しています。トランス脂肪酸は人が食事からとる必要のない、食べ物としては余分なものだと考えられます。当店では純乳脂肪100%の、トランス脂肪酸等が含まれない生クリームを使用しています。
遺伝子組み換え食品
また遺伝子組み換え食品は疑問が多いのでなるべく原種に近いものを使うようにと心がけています。豊かな遺伝子組み換え食品は人体に悪影響はないとされますが、長期的な影響はまだわかっていません。人体に悪影響はなくとも、生態系に取り返しのつかない影響を及ぼす可能性もあります。
美味しいもの=新鮮で安全なもの
人の体は食べた物でできています。ですので、余分なものはできるだけ体に入れないようにしたいと私は考えています。またパティシエである主人は美味しさ、よりくちどけよく、より味わいがあり、余韻があるもの…を探求していくうちに素材が重要であることに気づきました。新鮮な卵、良質な乳製品、国内産小麦、酒類等々。そうして彼の中でも美味しいものは新鮮で安全なものであるという認識になってきました。これは私も彼の作を食すうちに実感したことです。
洋菓子は嗜好品とは言え、他の食事と同様に大事な自分の体に入れて自分の体を作るものですので、素材にはこだわり、できうる限り新鮮で安全な美味しいものを追求をしていきたいと思っています。買値で見合う許される範囲で、できうる限りではありますが。
作る人と食べる人の距離
私たちは、作る人と食べる人の距離が短いのがいい、と考えています。支店を出すことやネット販売も考えていません。私たちが精を込めて作ったケーキがどのように販売されて食されているのかがわかる短い距離でのお客様との関係を続けていきたいと思っています。
添加物を多く使用すれば長距離、長時間の運搬が可能となりますが、当店ではそれをより短く、できれば食べる人の笑顔が見える距離で提供するのが理想なのです。
よい素材を使い、余分なものは加えず、作る人よし、食べる人よし、世の中よし、未来よしの「四方よし」となれば幸甚です。